頭文字語の乱立はなんとかならないのか

就職活動を始める学生にしても、新しく勉強を始める大学生にしても、見慣れない用語の意味を理解するのに苦労することが多いはず。
それは仕方のないことなのだが、アルファベットの頭文字を並べただけの用語*1を過度に使用すると、必要以上に混乱を招くことになると警鐘を鳴らしたい。



まず、頭文字語の一例をみてみる。

  • 最近の技術

  DVD(デジタルデータ媒体のひとつ)、LED(発光ダイオード

  • 企業名

  TBS(テレビ局)、NTT(電話会社)、JR(鉄道会社)

  • 商品名

  DS(任天堂の携帯ゲーム機)

  • 作品のタイトル

  E.T.(映画のタイトル)

  • 新語

  URL(Web上の住所)、OL(女性の会社員)


また、巷間での慣用的な略称としては、

  • 正式名称が長い場合の、略称としての呼称

  MIT(マサチューセッツ工科大学)、FF(ファイナルファンタジー

  • 他の意味との混同を防ぐための用法

  NRI(「野村総研」だが、口頭では「野村證券」と混同されうる)
などがある。



もちろん、これらの用例の中にも重複は起こりうる。
例えば、「OB」と言ったら、「男性卒業生」かもしれないし、「ゴルフで場外にボールを打ってしまうこと」かもしれない。でも、その2つは明らかに異なる文脈で用いられるので、従来は混乱が生じることは少なかった。但し、それは「OB」が意味する第三の選択肢が存在しないという前提の下である。


これは、日本語の同音異義語も同様で、可能な選択肢の範囲から考えるので、慣れれば日常会話に支障は生じない。




ところが、業界用語を表す頭文字語は日々無数に作られている*2。以下のように、正式名称が存在するのに敢えて略語を用いるのはもちろん、その業界では同じ用語を何度も用いるために、短い用語のほうが便利だからである。

  • ビジネス

  CEO(最高経営責任者)、BIS(国際決済銀行

  • 物理

  NMR(核磁気共鳴)、BEC(ボース・アインシュタイン凝縮

  • 量子情報(僕の専門)

  QKD(量子鍵配送)、LOCC(局所操作と古典通信)



上で述べたのは全て、基礎的な用語なので分野外の人でも理解できる可能性が高い。
でも、分野ごとに何十個も何百個も頭文字語が作られると、様々な意味になりうる頭文字語が登場したり*3、正式名称は知っているが頭文字語を聞いてもすぐに連想できないケースが生じる。


上の例で挙げた程度の基本的な頭文字語を使うのは一向に構わないのだが、特に自分の専門分野(研究でも、趣味でも)について一般人に対して話すときには、頭文字語を口にする前に一度考えて、同じ意味の他の言葉で置き換えられないか考えてみて欲しい。


特に、マイナーな頭文字語を使って、会話の相手がその用語を知らないことを知ることで悦に入るような真似はやめて欲しい…。

*1:本エントリーで述べるのは、acronymではなく、initialismのほうです。たとえば、「UFO(未確認飛行物体)」は「ユー・エフ・オー」と読まずに「ユーフォー」と発音するのが普通ですが、そのような例はここでは述べません。「CD(コンパクト・ディスク)」のように、アルファベットそのままの発音になる用例を扱います。

*2:専門分野の中でも、天文etc.ではinitialismよりもacronymがよく使われるようだ。科研費が多くかかるせいで、比較的一般向けの講演が多いせいだろうか…。

*3:例えばアルファベット3文字で表現できる頭文字語の種類は26の3乗=17576通り。現在でも、同じ頭文字語が5つ、6つの意味になることも珍しくない。