民主党政権下での「羽田−成田リニア新線」の実現度

少し前から、羽田空港と成田空港を高速鉄道で結ぶという計画があります。
この計画について、以下の記事を参照しながら検討してみます。



民主党政権下での「羽田−成田リニア新線」の実現度   ケンプラッツ・土木 2009/11/09
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/column/20091106/536734/?P=1

この記事の概要は、両空港を高速鉄道で結ぶ計画を、神奈川県知事が10月29日に国土交通相に提案した。自民党政権のときは渋い顔をされたが、民主党政権の前原国交相はまんざらでもない様子だった、というものです。
そもそも、一見すると5つのメリットを挙げているように見えて、実はメリットの3つ目が欠番で、4つしかメリットが挙がってないのだが、これが記者のミスか知事のミスか不明なので、追及しないでおきましょう(^^;




(前略)成田空港と羽田空港の間は約80kmあります。(中略)このデメリットを埋めるために、二つの空港間、もう少し延長して横浜やあるいは新宿、さいたま新都心まで、一挙にできなくても徐々につくっていけばいいと思うんですが、ここを超高速鉄道、リニアでも新幹線でも構わない。(時速)300kmぐらい出せる地下を走る鉄道をつくれば、成田空港、羽田空港は10分から15分で結ばれます。
80kmという数字は、東京湾岸を走った後、そこから直線で成田空港駅に向かう経路長だと考えられます。
まずは、「10分から15分」という数字がひとり歩きしないように、用いられている仮定を推測してみます。
単純に計算して、平均時速300km/hで80km走ったとしても、80÷300×60=16分だけの時間がかかります。
しかし、実際には加減速やカーブの影響があるはずです。ここでは百歩譲って、

  • カーブなど悪線形による減速の影響はないとする
  • 営業最高速度は、東北新幹線(2013年〜)と同じ 320km/h とする
  • 起動加速度は、N700系の 2.6km/h/s とする
  • 簡単のため、減速時の加速度も -2.6km/h/s とする

すると、加速時は123秒で10.94kmを走行。減速時も同じ。残りの最高速度で走行する区間で654秒かかるので、合計でちょうど900秒(=15分)かかります。(偶然キリの良い数字になりました)


それでは、10分とはどのような仮定から導かれたのでしょうか。今度は、他の仮定を同じにしたまま最高速度を中央新幹線の581km/hと仮定すると、496秒(=8分16秒)という結果が得られました。東京湾岸の悪線形で581km/hを達成することは不可能なので、現実的には10分ほどかかると思われます。(もちろん、地下深くの駅まで移動する時間は含まれていない)


まとめると、神奈川県知事の挙げた数字は
羽田空港―成田空港は、途中駅を作らなければ、浮上式リニアを使えば10分、新幹線を使えば15分の乗車時間で結べる」
という意味だということになります。


一方で、冒頭で挙げられている建設費「約1兆3000億円」が、浮上式リニア、新幹線のどちらの場合なのかはすぐには分かりませんが、もし新幹線の場合の試算だとすれば、「建設費1.3兆円で、成田―羽田を10分で結べる」という主張は誤りになります
参考までに、中央新幹線のBルート*1は、路線長346kmで5.74兆円という試算がなされています。今回の計画は80kmなので、単純に割り算しても1.33兆円ということになります。羽田空港付近の軟弱な地盤、途中で海底を通る必要があること、品川駅付近で中央新幹線よりも更に深い地下にシールドを掘る必要があることなどを考えると、建設費1.3兆円というのは在来型新幹線による試算である可能性が高いです*2




空港間の移動だけでは乗客が少ないですから、ペイできないと思います。したがって千葉や横浜や埼玉にまでつなげる。

続いて、この言及によって、いつの間にか千葉駅を通る計画にすり替わっています。
千葉駅を通るルートで線路を敷くことで、直線ルートに比べて距離が延びてしまいます。特に、千葉駅に停車すると両空港を結ぶ時間が延びるのはもちろんのこと、千葉駅を通過する快速列車を設定したとしても、千葉駅付近で急カーブを余儀なくされます。例えば、千葉駅を581km/hではなく100km/hまで減速して通過するならば、上記と同じ80kmだとしても2分ほどのタイムロスになります。




最後に情報を付け加えますが、神奈川県で簡単な試算をしました。そうしますと、いま大深度もすごく土木技術が発達して、たて坑をかなりの距離で間隔をあけられますので、建設費がどんどん下がります。そういうことで、おおむねこれをやったとしても、成田から横浜まで1兆3000億円ぐらい。滑走路を埋め立てるのと、そんなに変わらないんですね。
ここで、1.3兆円という額が、羽田―成田の工費から、横浜―成田の工費にすり替わりました。
横浜、羽田空港、千葉、成田空港の地下に駅を作るだけでも相当の建設費がかかるので、在来型新幹線でさえ1.3兆円で建設できるのかどうか、疑問なところです・・・。ましてや浮上式リニアは…。
この文章の「これ」が何を指すのか不明なのですが、もしかすると線路を敷くだけの試算であって、車両製作費や制御システムその他の費用を全く含んでいないのでしょうか。
仮に、それらの初期費用を含んで1.3兆円だとしても、これに加えて、運行にかかる電気代、人件費まで含めて経済波及効果(2.9兆円)と比較しないと意味をなさないですよね*3




今、成田新高速鉄道の構想がありますが、これも(成田空港から)日暮里まで51分が36分になるだけで、空港間を移動するのに、日暮里から都営浅草線京急線と乗り換えなければいけない。これは外国人のお客さん、初めて日本に来る方、荷物をたくさん持っている方は、ほぼ不可能です。
ん??? 羽田空港から成田空港へ移動するのに、どうやったら日暮里駅を経由する発想になるのか理解できませんが、ここでは日暮里駅を押上駅の間違いだとして話を進めます。
確かに、羽田空港から成田空港への直通列車は1日数本しか走っていませんが、それ以外の時間でもおおむね、乗り換えは1回(階段を上って降りるだけ)で済むことが多いですよね。あたかも、別会社間の乗り換えが2回も必要であるかのような書き方は納得がいきません。




また、成田を使う場合でも横浜からわずか10分ということになれば、神奈川県民の空港へのアクセス、利便性も飛躍的に向上すると考えています。
伝言ゲーム形式で、徐々に話がすり替わっていくのにお気づきでしょうか。

 「羽田から成田まで、途中駅無しで浮上式リニアを採用すれば10分」
→「羽田から成田まで、千葉駅経由でも10分」
→「横浜から成田まで、羽田と千葉を経由して10分」
←いまここ
となっています。1ページ目の冒頭では、「15分程度で羽田空港と成田空港間を結ぶ」って書いてあったのにね。(これは記者の責任だけど)




研究しておおむねこれぐらいという積算ができたとしたら、第一義的には国ですよね。上下分離が必要になると思います。運営はJR東日本にやってもらう。路線の建設は国が中心となって、それに地方負担が加わるのか、事業者負担が加わるのか。ただ、国が中心になっていただかないとできないプロジェクトだと思います。そういう面についてもこれからの協議ですよね。
そして極めつけはこの発言。羽田と成田を結ぶはずの鉄道に、こっそりと横浜を付け加えて、横浜付近の住人が成田空港へアクセスする利便性向上を狙った上に、「神奈川県は、横浜駅建設費用程度しか出さないよm9(^Д^)」と仰っている。



以上でみたように、この計画は対費用効果についての考察が不十分な計画なわけですが、民主党は、実態と無関係に一般人に受けの良い政策に賛成する節があるから、ちょっと不安ですよね。。。個人的には、実家がある横浜から成田空港へのアクセスが向上すれば、とっても嬉しいんですけどね(笑)
羽田―成田で3兆円という自民党の試算は現実味があって、信頼できるのですが…。

*1:Cルートは南アルプス貫通のためにkmあたりの工費がかさむという反論がありうるので、Bルートを引き合いに出しました。

*2:東京湾臨海部リニアモーター構想(1990年)を基に試算」とあるので、浮上式リニアによる試算の可能性もありますが、だとしても詳しい仮定が不明です。

*3:そもそも経済波及効果がどこまで含めているのか、年単位なのか否かなど、色々不明