横須賀線の武蔵小杉駅開業

最近のニュースから。


武蔵小杉新駅3月13日開業、成田直結で利便性向上/川崎
12月19日11時30分配信 カナロコ


ついに、品鶴線武蔵小杉駅が開業します。


10年ちょっと前の武蔵小杉駅は、目黒線が走っていなくて、東横線の南口は薄暗い通路を100mほど歩いた先に、小屋みたいなトイレの横に小さな改札があるだけの田舎駅でしたが、一連の再開発事業で跡形もなく良いイメージの街に生まれ変わりました。
工場が立ち並んでいたエリアは、今では30階、40階建ての高層マンションが雨後のタケノコのように建築されています。一節では、10万人規模で人口が増加しているとか。


東横特急目黒線に続いて、今度のダイヤ改正横須賀線の新駅も開業するので、より一層都心へのアクセスが便利な街になります。(さらには、川崎縦貫高速鉄道も武蔵小杉ルートに変更され、今後はますますアクセス性が向上するようです)



って、別に住宅の宣伝をするためのエントリーではなく(笑)、ニュースの記事に対して何点か突っ込むべき点があったので、筆を執ることにしました。



停車するのは、横須賀線100往復、湘南新宿ライン(特別快速・快速)66往復、成田エクスプレス26往復、新宿・池袋と伊豆急下田を結ぶ「スーパービュー踊り子号」1往復。

ここで、湘南新宿ラインが停車するというのが画期的なことです。
湘南新宿ラインは、横浜―渋谷間(副都心線との直通後は、新宿、池袋も)で東横線と競合しており、両駅の中間駅はなるべく削りたいというのがJR東の本音のはずです*1
しかし、それでも武蔵小杉駅に停車するからには、そこにはJR東の思惑が隠れています。



全列車が停車することについて、JR東日本横浜支社は「乗換駅で需要が高い。成田エクスプレスなども止める価値があると判断した」と話している。

とありますが、新駅が今の武蔵小杉駅から離れていることを考えると、このコメントは若干疑わしいものがあります。
「乗換駅」と言うけれど、JR戸塚方面からの利用客が東横線に乗り換えて渋谷方面に向かうためにJRが便宜を図ることはありえない(JRとしては、渋谷までJRに乗ってもらいたい)し、実際利用客にとっても東横線に乗り換えるメリットは感じられません。


武蔵小杉駅での乗り換えが発生しうるとしたら、東横線菊名方面からJRの東京へ向かう場合です*2が、これも考えにくいです。
というのも、例えば東横線日吉駅から東京駅に向かうケースを考えましょう*3
現状では、日吉駅から目黒線急行で目黒まで向かい、目黒から山手線内周りで東京に向かうのが標準的です。これは日中では、40分400円(乗換時間を含む)です。
それでは、新駅を利用した場合はというと、日吉―武蔵小杉が3分120円、武蔵小杉―東京が横須賀線で18分290円(推定)です。
この数値だけだと、ほとんど同じ料金で、時間は短縮されるように見えますが、実際には東横線武蔵小杉駅と新駅とは長い通路で結ばれています。南武線から新駅まで390mと書いてあるので、東横線からだと450m程度だと思います。すると、早足で乗り換えても6分程度かかります。
さらに、東京方面に向かう横須賀線は平均5本/時(不均一)なので、平均して6分ほど電車を待つことになります。
それでも5分早いじゃないかと言うかもしれないですが、横須賀線の東京駅は地下深くて、地上の目的地に向かうには大変不便です(この事情は、新橋駅でも同じですし、品川駅で13番線に到着した横須賀線から1番線の山手線などに乗り換えるのも遠いです)。


というわけで、所要時間は変わらずに徒歩の区間が長くなるだけなので、あまり東横線沿線の利用者のシフトは無いと予想されます。


それでは、何故JRがこれだけ多くの列車を武蔵小杉駅に停めるのかというと、武蔵小杉駅付近の住民の利用だけで十分元が取れると考えているからでしょう。それだけ武蔵小杉は、郊外の中でも突出した人口を抱えているわけです。


(「総事業費は約226億円。市が約168億円、住宅事業者が約20億円、JR東が約38億円を負担する」とあるので、JR東の自己負担を軽減する交換条件として、停車列車を増やす約束になっていた可能性もあります)



最後に、


武蔵小杉新駅促進協議会会長の松本等さん(82)は(中略)これだけ停車するのであれば、今度は(横須賀線と並行して走る)新幹線の新駅も」と期待を込めた。
とありますが、これは的外れな話ですね。
「そんなスペースがどこにあるんだよw もしあるなら、横須賀線の新駅を2面4線にするだろjk」と一蹴すればそれまでですが、もうちょっと説明しておきましょう。


そもそも武蔵小杉からのアクセスが向上しても、JR東海にとって何のメリットもないので、JR東海がお金を出すことはあり得ません。
それでは自治体はというと、これも難しそうです。武蔵小杉住民にとってさほどメリットがないからです(品川、東京へ快適通勤するなら横須賀線グリーン車で十分だし、名古屋方面へ向かうなら2019年開通予定の相鉄・東急直通線で新横浜へ向かえば良いだけです。


もっと言うと、仮にJRの建設負担額がゼロだとしても、JRが合意するとは思えません。JR東海としては、東京―大阪間を短時間で結ぶことが利益に繋がっているので、中間駅の設置には積極的でないはずです。
「でも、最近新幹線の品川駅を作ったじゃないか!」と言う人がいるかもしれませんが、あれは品川車庫に引き上げる回送列車によって本数減となる状況を改善するのが一義的な目標です。
また、「のぞみを停車させなければ都市間輸送には影響ないのでは?」と言う人もいるかもしれませんが、現在のダイヤでは(現在の運行本数を確保するには)、ひかりを停車させると後続ののぞみに影響が出てしまうので、ひかりを停車させることもできません。
かと言って、武蔵小杉のような鉄道が発達した駅に、30分に1本しか走らないこだまだけ停車させても、誰も利用しませんよね?
駅の維持費と天秤にかけると、現実的でないことが分かるかと思います。

*1:現在は、1時間に1本の特快はJRのほうが数分早いが、湘新の快速と東横特急はほぼ同じ所要時間(宇都宮線直通はJRのほうが遅い)で、料金は東横260円に対してJR380円と、JRが分が悪いです(東横線横浜駅が地下深いというデメリットがあるが、JR山手貨物線の渋谷駅は不便な所にあるので、相殺してしまいます)。通勤時間帯に関しては東横線が遅いのでJRが時間的に有利であることに加え、通勤定期の料金はほぼ同額(通学定期は東横線のほうが安いが)なので、横浜―渋谷の定期利用客はJRを利用する可能性があります。しかし、定期外利用客の多くを東横線に奪われているという状況です。今後、副都心線との直通によって、新宿の東側や、池袋への定期外利用客も東横線に奪われてしまう可能性があります。

*2:南武線から横須賀線湘南新宿ラインへの乗り換えも考えられますが、利便性向上によって利用客が大幅に増えるものではないので、それのために横浜―渋谷間の輸送を犠牲にする必要はありません。

*3:大倉山、綱島に関しては、(あれば)日比谷線直通列車に乗って、日吉で目黒線急行に乗り換え、菊名―反町に関しては特急に乗って武蔵小杉で目黒線急行に乗り換えられるので、いずれも同じ事情です。