研究か、就職か。

【イントロ】
最近、更新が滞ってごめんなさい。特段、以前より忙しくなったというわけじゃないんですが、まとまった文章を書くやる気が起きなくて…。

最近、Twitterで就職に関する呟きばかり投稿してるからみんな察してるだろうけど、現在は就活まっしぐらです。

ほんの3か月前までは博士課程進学しか考えてなかったし、1ヵ月前まで「多分ドクター行くだろうなぁ」と思ってたんですが、ふとした心変わりで、徐々に就職に傾いてきました。

就活でそう話すと、必ず「何故就職することにしたのか」と聞かれます。今までは即興で答えていたのですが、やはり事前に要点を整理しておかないとうまく答えられないことを実感し、論点を洗い出してみることにしました。



【対象が自然科学である必然性がないこと】
僕は小さいころから、パズルとか将棋のように頭を捻る遊びや、その結果「なるほど!」と感じることを楽しんでいました。
「優等生」的な物理学科生とは違って、僕はぶっちゃけ物理には大して興味が無かったんですね*1
客観的に考えたら、なぜ数学科に進学しなかったのかと聞かれるかもしれないけど、「(現実世界の構成とは無関係に)仮定された状況の下で、どんな性質が成り立つのか」を追究するよりは、現実世界に結び付けてあれこれ考えるほうが魅力的であって(←ここまでは当たり前だが)、それゆえに物理学科のほうがより面白い研究が出来ると思ったからです。


例えば、特殊相対論の枠組みが恐ろしく綺麗に構築され、それが見事に実験に合うことには感動を覚えたし、それとは逆に、(自然をうまく記述すると思われている)量子論において、人間の直観(古典実在論)に反する奇妙なことが起こっていることに衝撃を受けました。
もっと初歩的な段階では、ニュートン力学からは多様な現象が予言されるにもかかわらず、簡単な基本法則から導かれた多様な現象たちが、互いに矛盾することがないという事実が驚きでした。


一方で、基礎理論を様々な問題に適用する際に、近似的な(あるスケールでのみ成立する、あまり美しくない)関係式を使ったり、(起源が不明瞭な)現象論的な効果を取り入れて議論するのは、あまり好きではありませんでした。
ましてや、自然を理解するという目標のための過程で「なるほど!」という感動を覚えないような研究は、(僕にとっては)何も魅力的でないことになります。例えば、素粒子実験や天文観測のプレゼンテーションで、大規模な装置にどれだけ費用と人員と年月をかけて、どれだけ精度の良い検出器が用いられるかを熱く語られたところで、「ふーん…」という以上の感想が浮かびません。


でも、原理的な問題を追究できる物理の分野は、そう多くはありませんでした。大学院では、一番それに近い量子情報理論を専攻して、「仮に量子論が修正されて、量子論よりも強い相関を許す理論が生まれたら、何が起こるだろう」と思いを巡らせていました。
しかし、(数学ではなく)物理をやっている限りは、(そういう趣味のような研究とは別に)現実世界と結びつくような研究も並行して行うことが求めらました。


もともと自然科学に特別な思い入れがあったわけではないので、研究の対象を自然科学以外にしても良いかな、と思ったわけです。


もっとも、金融工学でも近似的なモデルを立てたり、モデルの適用限界を認識することが重要だという点では物理学(物性など)と同じ*2なので、ここまでの主張では他の分野を積極的に選ぶ理由にはなりません。単に、どちらでも良いよね、という程度です。



【社会的な状況】
研究ではなく就職しようと思えた一番の理由は、オーバードクターポスドク問題に始まる就職難、事業仕分けなどです。ここに事業仕分けを挙げましたが、「事業仕分けで迫害されたから、研究を断念せざるを得なかった」と民主党を非難する意図はありません。事業仕分けを巡る議論を通じて、世間では理学的研究が想像以上に軽視されていることを知ることができた、という意味です。


これらは詳説するまでもないだろうから割愛しますが、「心底研究職に就きたかったが、これらの事情が深刻なあまり、涙を飲んで断念した」というよりは、「それならば、研究職を選ぶ積極的な理由が無いかな」と言う程度です。



【仕事に打ち込める環境】
もうひとつ、大きな理由があります。僕は、フラストレーションが溜まるのが嫌いだということです。
というのも、大学の教授になると、自分の研究にやりがいを見出して「あれを知りたい、これを調べたい」という知的好奇心にあふれている状況であっても、大学の運営にかかわる会議に出席したり、雑用が降って来ることが頻繁にあります。


別に、雑用が嫌いなわけではありません。雑用をやっているだけで役目を果たせる仕事であれば、それはそれで楽しめます*3。でも、一度雑用が降ってきて研究に対する意欲を削がれると気分を害するし、その後の研究に対するモチベーションが沸かない気がします。そういう状況でもうまく気持ちを切り替えられる人もいるでしょうが、僕はそういうタイプではないので、二流の研究者で終わるくらいなら、他の仕事にやりがいを見出すほうが楽しめるんじゃないかと思いました。


今んトコ、金融の仕事なんて面白いんじゃないかと思ってます。

*1:語弊のある表現を正すと、「宇宙の果てはどうなっているのか」とか「宇宙の始まりはどうなっていたのだろうか」といった、究極的な(答えの見つからない)疑問にあれこれ思いを巡らすのは好きでした。でも、俗に「男の子回路」と言われるような、模型を組み立てたりロボットを作ったり、そういう「やろうと思えばできるだろう」という作業には興味が持てませんでした。

*2:さらに、自然に興味を持たずに物理をやるべきでないのと同様、経済に興味が持てないのに金融に行くのは望ましくないと分かってます。金融工学の目標は、綺麗な理論を作ることではなくお金儲けなので。

*3:企業の運営や経営判断は、研究者にとって「雑用」であるだけで、企業の経営者にとっては雑用ではないので、ここで「雑用」と呼ぶのは不適切かもしれませんが…。