ハムレット効果

arXivという論文投稿用プレプリントサーバーをチェックしていると、なにやら物理学者には見慣れない文字列を見かけました。


【Quantum Hamlet Effect(量子ハムレット効果)】
http://arxiv.org/abs/0908.1301



ハムレットとは、あの有名なシェイクスピアの文学作品ですが、こんなトコで見かけたせいで、「ハムレットって聞いたことあるけど、何の物理学者だったっけ・・・」と真剣に悩んでしまいました。


中身を読んでみると、量子ゼノ効果に関する話でした。(哲学者のゼノンの、時間の矢のパラドックスに準えた命名ですが、こっちはメジャーな呼び方です)


どの辺に文学的な要素が現れるのかと思って読んでいくと、


In this way there is quantum mechanically completely unsolvable “Hamlet dilemma”, to decay or not to decay.


ちょっと待って欲しいww 単に "to be or not to be" を真似した表現を使って、ハムレットとか謳ってるのかよw これだと、世の中のすべてのパラドックス(或いはそう見えるもの)はすべてハムレット効果って呼べるじゃんwww


前に見かけた、スーパーマリオの論文と同じくらい面白い論文でした(ネタ的な意味で)。




あ、ちなみに、論文の中身はあまり読む価値はないと思いますよ。

量子ゼノ効果に類似した状況を考えることによって、上準位に見出す確率に関してパラドックスが生じるというものですが、(一連の操作に要する時間が発散するだろ、とかいうツッコミ以前に)(10)式を見ただけで破綻していることが分かります(3ページ目までは読んで損しました)。
「(10)式の右辺が、十分大きい n に対して負になってしまうために、確率が負になるので量子論の描像が破綻する*1」と書いてあるんですが、それはテイラー展開に関してωτの最低次しか採らない近似が破綻するから*2に過ぎなくて、物理的な内容を何も考えなくてもパラドックスは解消します。


それだけの内容で論文になるはずがないので、ひょっとしたら、物性屋さんのセンスでは遷移確率に関して最低次の項だけ採用することが常套手段になっているのでしょうか…。だとすれば、「こういう状況では、その常套手段が通用しないので気をつけてね」と警鐘を鳴らす意味の論文だと理解できます。
いずれにしても、量子情報の立場ではこの論文の価値が全く分かりませんでした。。。

*1:原文:It, generally speaking, represents a complete destruction of the quantum predictions on decay probability of an unstable quantum system by frequent measurements.

*2:正確に言うと、ωτ→0 の極限操作と n→∞ の極限操作が入れ替えられない、ということ。