(おまけ)TeX形式で読みたい人向け

E君が、「以前の記事を精読するためにプリントアウトしようとしたら、数式に改行が反映されなくて読みにくい、と指摘してきたので、html用に書いたものをTeX用に書きなおしました。
必要な人は、下のソースをTeXコンパイルしてから読んでください。プリアンブルなどは標準的なものを使ってくれれば良いと思います。


1月18日の記事


高校の物理でニュートンリングのあたりの説明で,しばしば以下のような記述を目にします.
\begin{itemize}
\item 屈折率の大きな物質で反射される場合は位相が$\pi$ずれ,屈折率の小さな物質で反射される場合は位相がずれない.
\end{itemize}

当時はあまり疑わなかったのですが,この事実は何故成立するのでしょうか?

そんなことをふと疑問に思ったので,早速計算してみました.

媒質1から媒質2に垂直に電磁波が入射するケースを考える.

入射電場を$\exp \{ i(kx-\omega t) \} $,反射電場を$r\exp \{ i(k'x-\omega 't+\delta _r ) \} $,透過電場を$t \exp \{ i(k''x-\omega ''t + \delta _t ) \} $とします.ここでエネルギー収支の式から,$r^2+ \alpha t^2=1$ ($\alpha \equiv \sqrt{\frac{\epsilon _2 \mu _1}{\epsilon _1 \mu _2}}$)となります.

さらに,境界での電場・磁場の接続条件を考えることによって,$r=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }$,$t=\frac{2}{1+\alpha}$が導かれます.
(ここまでの6行は前エントリーと共通なので,詳しくはそちらを見てください)

$x=0$での電場の接続条件より,$\exp (-i\omega t) + r \exp (-i\omega 'r + i\delta _t ) = t \exp (- i\omega ''t + i\delta _t)$.これが任意の時刻で成立するためには$\omega = \omega ' = \omega ''$なので,代入すると,
\begin{align}
1+r \exp (i\delta _r) = t \exp (i\delta _t)
\end{align}
を得る.

(1)式の左辺第2項を右辺に移項して絶対値をとって,$1=t^2 + r^2 - rt \exp \{i(\delta _r - \delta _t)\} - c.c.$ ⇔ $\cos (\delta _r - \delta _t ) = (1-\alpha )\frac{t}{2r} = \frac{1-\alpha}{|1-\alpha |}$となります.これは$\alpha$の大小によって,$+1$または$-1$の値をとります.
まとめると,
\begin{itemize}
\item $ \alpha > 1$のとき,$\delta _r - \delta _t = \pi$.すなわち透過波と反射波に位相差$\pi$が生じる.
\item $ \alpha < 1$のとき,$\delta _r - \delta _t = 0$.すなわち透過波と反射波に位相差が生じない.
\item ($\alpha = 1$のときは反射が起こらない)
\end{itemize}

次に,(1)式の実部と虚部の比をとって,分母を払うと,$r\sin \delta _r \cos \delta _t = (1+r\cos \delta _r )\sin \delta _t$ ⇔ $r\sin (\delta_r - \delta_t)=\sin \delta_t$となる.$\delta _r - \delta _t = 0$,$\delta _r - \delta _t = \pi$のいずれの場合も,$\delta _t = 0$または$\delta _t= \pi$となる.
$\delta_t$の可能性が2通りあるのですが,ここで特別なケースとして$t=1$(従って,$r=0$)を考えると,何も反射が起きないのだから,$\delta _t=0$でなければなりません.
$t\neq 1$についても,透過率を変化させた時に物理現象が不連続に変わらないことを自然に仮定すると,透過率の振幅$t$がゼロでない限り$\delta_t$が連続的に変化する必要があります.$t=0$(完全反射)についても,極限$t \rightarrow 0$とみなせば\footnote{ただし,完全反射はここで扱っている「分極」の描像ではなく,透過側を「完全導体」として扱うほうが適切です.すなわち,「振幅が無限小の電磁波が透過側に侵入する」と解釈するよりは「電場の方向に(オームの法則などに近似的に従って)電流が流れ,電場が打ち消されるため,電磁波は生じない」という扱いのほうが適切なので,ここでの議論は$t=0$に適用できない,という立場でも良いでしょう.},やはり$\delta_t=0$が成り立ちます.その結果,反射率・透過率によらずに$\delta_t=0$と言えます.

ひとつ前の結果と合わせて,
\begin{itemize}
\item $ \alpha > 1$のとき,$\delta _t =0, \delta _r = \pi$.すなわち反射波の位相が$\pi$ずれる.(透過波の位相はずれない)
\item $ \alpha < 1$のとき,$\delta _t =0, \delta _r = 0$.すなわち反射波の位相はずれない.(透過波の位相もずれない)
\end{itemize}
となります.

それでは,$\alpha$の意味を解釈してみます.媒質1,媒質2での伝播速度を$c_1,c_2$,屈折率を$n_1,n_2$とすると,
$\alpha \equiv \sqrt{\frac{\epsilon _2 \mu _1}{\epsilon _1 \mu _2}} = \sqrt{\frac{\epsilon _2 \mu _2}{\epsilon _1 \mu _1}} \frac{\mu_1}{\mu_2} = \frac{c_1}{c_2}\frac{\mu_1}{\mu_2} = \frac{n_2}{n_1}\frac{\mu_1}{\mu_2}$となります.

普通の絶縁体\footnote{ここで「絶縁体」と言ったのは,ここでの議論が媒質1,2が絶縁体のときにしか成立しないからです.脚注1でも触れたように,ここでは両方の媒質中で電磁波が存在しうることを仮定しています(i.e. 誘電率透磁率が定義できることを仮定しています).絶縁体でない場合には,本文で述べたのとは違った議論が必要です.   従って,比透磁率が1でないものを探すときに,鉄やニッケルなどの金属を例示することはできません.}は磁性を持たない(と考えられる)ので,$\mu_1 = \mu _2 =\mu _0$($\mu_0$は真空の透磁率).これを代入すると,$\alpha = \frac{n_2}{n_1}$となるので,
\begin{itemize}
\item 屈折率の大きな物質で反射されるとき,反射波の位相が$\pi$ずれる.(透過波の位相はずれない)
\item 屈折率の小さな物質で反射されるとき,反射波の位相がずれない.(透過波の位相もずれない)
\end{itemize}
という,よく知られた結論が得られます.

一見もっともらしい議論\footnote{とりあえず計算を始めてみたものの,何も仮定せずにこんなことが導けるとは予想していなかったので,その点だけでとても驚きでした.   僕はこのような議論を目にしたことがなかったのですが,物理学科の皆さんには既出の話題だったのでしょうか??  あ,もしかしてヘクトの「光学」あたりに載ってるのかな? 明日確かめてみよう・・・.}なのですが,赤字の部分(磁性を持たないと考えてよいのか、という点)が僕には引っ掛かりました.

確かに,ありふれた絶縁体の透磁率は真空の透磁率にとても近いですが,例えば比透磁率が$\mu _r = 1.2$とか,$\mu _r =1.5$とかいう物質が存在しても良いような気がします.

そのような物質に対しては,
\begin{itemize}
\item 屈折率の大きな物質で反射しているのに,位相がずれない
\end{itemize}
といったことも生じうるのでしょうか??

屈折率の大小は,近似的な判定基準に過ぎなかったことが,僕には衝撃だったのですが,皆さんはどうでしょうか?



<1月17日の記事>


昨日書いた,ハーフミラーで反射・透過するときの位相について,だいたい考えがまとまったので備忘録として書いておきます(最終更新:1月18日14時42分)

\begin{itemize}
\item マッハ・ツェンダー干渉計の動作などを考えることにより,どうやらハーフミラーでの透過光と反射光の位相差が$\pi /2$または$-\pi /2$でなければエネルギー保存などに反するようだ
\end{itemize}
というのがそもそもの発端でした.

これに関して,E君が
\begin{itemize}
\item 位相差$\pm \pi /2$はプラスとマイナスのどちらなのか?
\end{itemize}
という尤もな疑問で悩んでいるようなので,僕の考えたことをまとめておきます.

まずは,位相差が$\pm \pi /2$となる理由を古典電磁波のケースで説明します\footnote{古典電磁波の代わりに,量子力学での波動関数を考えたケースは,ここの3ページ目を参照 http://departments.colgate.edu/physics/research/Photon/root/ajpbs02.pdf(PDF注意) }.なお,以下の議論は全て古典的な波動についても成立します(媒質の繋ぎ目などでエネルギーが散逸しうるケースを除く)

媒質1から媒質2に垂直に\footnote{垂直でない場合は,入射角に応じて色々変わってくるし,偏光の向きによるはずですが,その場合にどうなるかは考えてみてください(丸投げ).}電磁波が入射するケースを考える.
入射電場を$\exp \{ i(kx-\omega t) \} $,透過電場を$t\exp \{ i(k'x-\omega 't+\theta ) \} $,反射電場を$r \exp \{ i(k''x-\omega ''t + \phi ) \} $とします.すると,$|\vec{H} | = \sqrt{\frac{\epsilon}{\mu}} |\vec{E}|$の関係から,入射磁場の大きさは$\sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}}$,反射磁場の大きさは$r\sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}}$,透過磁場の大きさは$t\sqrt{\frac{\epsilon _2}{\mu _2}}$となります.

ここで,エネルギー収支が保存するためには,ポインティング・ベクトル$E\times H$を閉曲面で積分してゼロにならないといけない:
$r^2 \sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}} + t^2 \sqrt{\frac{\epsilon _2}{\mu _2}} = \sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}}$ ⇔ $r^2+\alpha t^2 =1$となる.($\alpha \equiv \sqrt{\frac{\epsilon _2 \mu _1}{\epsilon _1 \mu _2}}$)\footnote{古典波動の場合も,振幅$A$の単色波のエネルギーが$\frac{1}{2m}\omega ^2 A^2 + \frac{1}{2m} \dot{A}^2$と書けることと,伝播速度が$\propto \frac{1}{\sqrt{m}}$に比例することから,電磁気の場合と並行に議論ができます.}

媒質1,媒質2,媒質1の順に並んでいる空間で,電磁波が界面に垂直に入射します.

媒質1から媒質2に入射する時の反射率\footnote{以下では一貫して,電場の反射率・透過率を扱います.磁場の反射率は電場と同じですが,磁場の透過率には因子$\alpha$がかかるため,電場の透過率とは区別する必要があります.}を$r_1 \exp (i\theta _1)$,透過率を$t_1 \exp (i\phi_1)$とし,媒質2から媒質1に入射する時の反射率を$r_2 \exp (i\theta _2)$,透過率を$t_2 \exp (i\phi_2)$とします.すると,入射電場の複素振幅を1としたとき,反射電場の複素振幅
\begin{align*}
\frac{r_1 \exp (i\theta _1) - r_1 r_2 ^2 \exp \{ i (\theta_1 + 2\theta_2 + 2\delta ) \} + t_1 t_2 r_2 \exp \{ i (\phi _1 + \phi _2 + \theta _2 + 2\delta ) \} }{1 - r_2^2 \exp \{ i (2\theta _2 + 2\delta )\} }
\end{align*}
,透過電場の複素振幅は
\begin{align*}
\frac{t_1 t_2 \exp \{ i (\phi_1 + \phi_2 + \delta ) \} }{1 - r_2^2 \exp \{ i (2\theta _2 + 2\delta )\} }
\end{align*}
となる.($\delta$は,媒質2中を進む間の位相変化)

ここで,$r_1,r_2,t_1,t_2$の値が必要になります.普通の計算によって,$r_1=\frac{ | \sqrt{\epsilon _1/\mu _1} - \sqrt{\epsilon _2/\mu _2} | }{ \sqrt{\epsilon _1/\mu _1} + \sqrt{\epsilon _2/\mu _2} }$となり(フレネルの式),これは上で定義した$\alpha$を用いると,$r_1=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }$となります.

$r_2$を求めるには,$\alpha \rightarrow 1/\alpha$とすればよく,また$t_1 , t_2$はエネルギー収支の式$r_1^2+\alpha t_1^2=1$,$r_2^2+\frac{1}{\alpha}t_2^2 =1$から求められる.結局,$r_1=r_2=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }$,$t_1=\frac{2}{1+\alpha}$,$t_2=\frac{2\alpha }{1+\alpha}$となる.

次に,位相のずれ$\theta_1,\theta_2,\phi_1,\phi_2$の間の関係を求めるため,次の状況を考えます.

媒質1と媒質2の界面を考えて,媒質1から媒質2に向かって複素振幅1の電場を入射させ,同時に媒質2から媒質1に向かって複素振幅$\exp (i\gamma )$の電場を入射させます.そのとき,媒質1側の電場の複素振幅は(入射波の影響が及んでいない領域では)$ r_1 \exp (i\theta _1)+ t_2 \exp (i\phi _2) \exp (i\gamma )$となり,媒質2側の電場の複素振幅は$ t_1 \exp (i\phi_1)+ r_2 \exp (i\theta_2) \exp (i\gamma )$となります.磁場の複素振幅は,媒質2のみ$\alpha$倍すれば得られます.エネルギー収支の式から,$|\vec{E}\times \vec{H}|$がもとの値に等しくなければならないので,
\begin{align*}
&| r_1 \exp (i\theta_1)+ t_2 \exp (i\phi_2) \exp (i\gamma ) | ^2 + \alpha | t_1 \exp (i\phi_1)+ r_2 \exp (i\theta_2) \exp (i\gamma ) |^2 = 2 \\
\Leftrightarrow &\cdots (r_1,r_2,t_1,t_2の値を代入して計算)\\
\Leftrightarrow &\frac{4\alpha |1-\alpha |}{(1+\alpha )^2} \{ \cos (\phi_2 - \theta_1 + \gamma ) + \cos (\theta _2 - \phi_1 + \gamma ) \} = 1-\alpha \\
\Leftrightarrow &\frac{8\alpha |1-\alpha |}{(1+\alpha )^2} \cos \frac{\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 - \phi_2 }{2} \cos \frac {\theta_2 - \theta_1 - \phi_1 + \phi_2 + 2\gamma }{2} = 1-\alpha
\end{align*}

これが任意の$\gamma$について成立するためには,$\alpha \neq 1$のとき(i.e. 媒質の境界において)$\cos \frac{\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 - \phi_2 }{2} = 0$ ⇔ $\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 -\phi_2 = \pi$である.

以上で得られた式$\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 -\phi_2 = \pi$,$r_1=r_2=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }$,$t_1=\frac{2}{1+\alpha}$,$t_2=\frac{2\alpha }{1+\alpha}$を用いると,
\begin{align*}
(反射)/(透過) = \frac{-r_1 \exp \{ -i (\theta_2 + \delta) \} + r_1r_2^2 \exp \{ i (\theta_2 + \delta ) \} + t_1 t_2 r_2 \exp \{ i (\theta_2 + \delta ) \} }{t_1 t_2} = i\frac{2r_1}{t_1 t_2}\sin (\theta_2 + \delta )
\end{align*}
となり,めでたく純虚数,すなわちハーフミラーでの反射波と透過波の位相差が$\pm \pi /2$であることが導けました.  ■

ここでようやく,E君の疑問に答えます.
\begin{itemize}
\item 位相差$\pm \pi /2$はプラスとマイナスのどちらなのか?
\end{itemize}

上の表式:(反射)/(透過) = $i\frac{2r}{t^2}\sin (\theta_2 + \delta )$ から分かるように,(反射)/(透過) の虚部の正負は$\delta$の関数,すなわちハーフミラーの厚さに依存して決まるので,一概に言うことはできない

上のように,反射率を変えていくと,反射波と透過波の位相差のみ保ちながら,どちらの位相も少しずつ動いていくという,ちょっとおもしろい結果が得られました.その動き方は簡単な式では書けませんが,透過波の複素振幅が既に求まっているので,数値的に解くことはできるようです.

ハーフミラーについての説明はこのくらいにしておきますが,これを調べているうちに,そもそも2層の境界での反射・透過について意外なことが分かったので,それについて次のエントリーで書くことにします.