Bellの不等式の検証実験の意義
Bellの不等式によって、
ということが示されました。ここで残る可能性として、大きく分けて
古典実在論に固執する限り、量子論の予言の全てを信じることはできない
があります。
この理論が偉大であることに疑いの余地は無いのですが、これに関して、「Bellの不等式の検証実験」という、後者の可能性を否定する動きがあります。
でも、検証実験に用いる検出器は量子論独特の性質を利用しているので、ちょっと考えると、なんだか
というトートロジー*1に聞こえてしまい、過去に何度か混乱しました。
量子論の公理を仮定して、量子論の帰結を実験的に示す
これに関して大体考えがまとまったので、(備忘録として)まとめておきます。
検証実験で棄却しようとしているのは、
という可能性ではありません。(そんな実験はできるはずがない!)
量子論の予言は(今まで確認されていないものも含めて)すべて正しい
そうではなく、
という可能性を否定しようとしているのです。
古典実在論はいつでも正しい
Bellの理論から言えることは
という点である。この「|C|≦2」という結論を実験的に否定することで残る可能性は、
実験装置に期待する性質(光子の発生機構や検出器の動作など)と光子のような概念、そして古典実在論がいずれも正しいならば、(CHSH不等式の場合)|C|≦2 という実験結果を与える。
- 実験装置に期待する性質が間違っている(動作原理については言及しない!)
- 光子のような概念が不適切である
- 古典実在論が間違っている
のいずれかである。
この中で、「実験装置の動作が間違っている」という可能性は、普段からその実験装置を別の実験に対して繰り返し使っていることから否定できるので、「概念自体が不適切である」という可能性を否定すれば良い、ということになる。
あとは、光子という概念(K中間子を使うならK中間子という概念、その他もろもろ)を隠れた変数理論で再現する際に、原理的な制限が存在しないことを確認すれば十分である。
「〜がない」という証明は悪魔の証明になってしまうので不可能だが、少なくとも、例えば「決まった周波数の光のエネルギーが離散的になる」といった事実が、CHSH型の不等式によって原理的に否定されるわけではないので、検証実験自体は意味があるだろう、ということで納得しました。
とはいえ、仮に技術的な制約を乗り越えて、非局所性と検出効率の問題を同時にクリアする実験があったとしても、どこまでを自由意思に含めるかという点が個人の哲学に依存してしまうので、Bell型の不等式を検証している限りは、全員が完全に合意する検証は不可能だと思いますが。。。