ハーフミラーでの反射・透過

昨日書いた,ハーフミラーで反射・透過するときの位相について,だいたい考えがまとまったので備忘録として書いておきます.(誰が読むんだか・・・.)さっきまであれこれ悩んでいたので,何度もアップロードしたり消したりを繰り返してごめんなさい,今度こそ大丈夫です. (最終更新:1月18日14時42分)



マッハ・ツェンダー干渉計の動作などを考えることにより,どうやらハーフミラーでの透過光と反射光の位相差が\pi /2または-\pi /2でなければエネルギー保存などに反するようだ
というのがそもそもの発端でした.


これに関して,E君が

  • 位相差\pm \pi /2はプラスとマイナスのどちらなのか?

という尤もな疑問で悩んでいるようなので,僕の考えたことをまとめておきます.


まずは,位相差が\pm \pi /2となる理由を古典電磁波のケースで説明します*1.なお,以下の議論は全て古典的な波動についても成立します(媒質の繋ぎ目などでエネルギーが散逸しうるケースを除く)


媒質1から媒質2に垂直に*2電磁波が入射するケースを考える.
入射電場を\exp \{ i(kx-\omega t) \} ,透過電場をt\exp \{ i(k'x-\omega 't+\theta ) \} ,反射電場をr \exp \{ i(k''x-\omega ''t + \phi ) \} とします.すると,|\vec{H} | = \sqrt{\frac{\epsilon}{\mu}} |\vec{E}|の関係から,入射磁場の大きさは\sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}},反射磁場の大きさはr\sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}},透過磁場の大きさはt\sqrt{\frac{\epsilon _2}{\mu _2}}となります.


ここで,エネルギー収支が保存するためには,ポインティング・ベクトルE\times Hを閉曲面で積分してゼロにならないといけない:
r^2 \sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}} + t^2 \sqrt{\frac{\epsilon _2}{\mu _2}} = \sqrt{\frac{\epsilon _1}{\mu _1}}r^2+\alpha t^2 =1となる.(\alpha \equiv \sqrt{\frac{\epsilon _2 \mu _1}{\epsilon _1 \mu _2}}*3


媒質1,媒質2,媒質1の順に並んでいる空間で,電磁波が界面に垂直に入射します.
媒質1から媒質2に入射する時の反射率*4r_1 \exp (i\theta _1),透過率をt_1 \exp (i\phi_1)とし,媒質2から媒質1に入射する時の反射率をr_2 \exp (i\theta _2),透過率をt_2 \exp (i\phi_2)とします.すると,入射電場の複素振幅を1としたとき,反射電場の複素振幅は\frac{r_1 \exp (i\theta _1) - r_1 r_2 ^2 \exp \{ i (\theta_1 + 2\theta_2 + 2\delta ) \} + t_1 t_2 r_2 \exp \{ i (\phi _1 + \phi _2 + \theta _2 + 2\delta ) \} }{1 - r_2^2 \exp \{ i (2\theta _2 + 2\delta )\} },透過電場の複素振幅は\frac{t_1 t_2 \exp \{ i (\phi_1 + \phi_2 + \delta ) \} }{1 - r_2^2 \exp \{ i (2\theta _2 + 2\delta )\} }となる. (\deltaは,媒質2中を進む間の位相変化)



ここで,r_1,r_2,t_1,t_2の値が必要になります.普通の計算によって,r_1=\frac{ | \sqrt{\epsilon _1/\mu _1} - \sqrt{\epsilon _2/\mu _2} | }{ \sqrt{\epsilon _1/\mu _1} + \sqrt{\epsilon _2/\mu _2} }となり(フレネルの式),これは上で定義した\alphaを用いると,r_1=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }となります.


r_2を求めるには,\alpha \rightarrow 1/\alphaとすればよく,またt_1 , t_2はエネルギー収支の式r_1^2+\alpha t_1^2=1r_2^2+\frac{1}{\alpha}t_2^2 =1から求められる.結局,r_1=r_2=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }t_1=\frac{2}{1+\alpha}t_2=\frac{2\alpha }{1+\alpha}となる.


次に,位相のずれ\theta_1,\theta_2,\phi_1,\phi_2の間の関係を求めるため,次の状況を考えます.
媒質1と媒質2の界面を考えて,媒質1から媒質2に向かって複素振幅1の電場を入射させ,同時に媒質2から媒質1に向かって複素振幅\exp (i\gamma )の電場を入射させます.そのとき,媒質1側の電場の複素振幅は(入射波の影響が及んでいない領域では) r_1 \exp (i\theta _1)+ t_2 \exp (i\phi _2) \exp (i\gamma )となり,媒質2側の電場の複素振幅は t_1 \exp (i\phi_1)+ r_2 \exp (i\theta_2) \exp (i\gamma )となります.磁場の複素振幅は,媒質2のみ\alpha倍すれば得られます.エネルギー収支の式から,|\vec{E}\times \vec{H}|がもとの値に等しくなければならないので,
| r_1 \exp (i\theta_1)+ t_2 \exp (i\phi_2) \exp (i\gamma ) | ^2 + \alpha | t_1 \exp (i\phi_1)+ r_2 \exp (i\theta_2) \exp (i\gamma ) |^2 = 2
⇔ ・・・(r_1,r_2,t_1,t_2の値を代入して計算)
\frac{4\alpha |1-\alpha |}{(1+\alpha )^2} \{ \cos (\phi_2 - \theta_1 + \gamma ) + \cos (\theta _2 - \phi_1 + \gamma ) \} = 1-\alpha
\frac{8\alpha |1-\alpha |}{(1+\alpha )^2} \cos \frac{\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 - \phi_2 }{2} \cos \frac {\theta_2 - \theta_1 - \phi_1 + \phi_2 + 2\gamma }{2} = 1-\alpha


これが任意の\gammaについて成立するためには,\alpha \neq 1のとき(i.e. 媒質の境界において)\cos \frac{\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 - \phi_2 }{2} = 0\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 -\phi_2 = \piである.



以上で得られた式\theta_1 + \theta_2 - \phi_1 -\phi_2 = \pir_1=r_2=\frac{|1-\alpha |}{1+\alpha }t_1=\frac{2}{1+\alpha}t_2=\frac{2\alpha }{1+\alpha}を用いると,
(反射)/(透過) = \frac{-r_1 \exp \{ -i (\theta_2 + \delta) \} + r_1r_2^2 \exp \{ i (\theta_2 + \delta ) \} + t_1 t_2 r_2 \exp \{ i (\theta_2 + \delta ) \} }{t_1 t_2}i\frac{2r_1}{t_1 t_2}\sin (\theta_2 + \delta )
となり,めでたく純虚数,すなわちハーフミラーでの反射波と透過波の位相差が\pm \pi /2であることが導けました.  ■




ここでようやく,E君の疑問に答えます.

  • 位相差\pm \pi /2はプラスとマイナスのどちらなのか?

     上の表式:(反射)/(透過) = i\frac{2r}{t^2}\sin (\theta_2 + \delta ) から分かるように,(反射)/(透過) の虚部の正負は\deltaの関数,すなわちハーフミラーの厚さに依存して決まるので,一概に言うことはできない




上のように,反射率を変えていくと,反射波と透過波の位相差(=\pm \pi /2)のみ保ちながら,どちらの位相も少しずつ動いていくという,ちょっとおもしろい結果が得られました.その動き方は簡単な式では書けませんが,透過波の複素振幅が既に求まっているので,数値的に解くことはできるようです.



ハーフミラーについての説明はこのくらいにしておきますが,これを調べているうちに,そもそも2層の境界での反射・透過について意外なことが分かったので,それについて次のエントリーで書くことにします.

*1:古典電磁波の代わりに,量子力学での波動関数を考えたケースは,ここの3ページ目を参照 http://departments.colgate.edu/physics/research/Photon/root/ajpbs02.pdf(PDF注意)

*2:垂直でない場合は,入射角に応じて色々変わってくるし,偏光の向きによるはずですが,その場合にどうなるかは考えてみてください(丸投げ).

*3:古典波動の場合も,振幅Aの単色波のエネルギーが\frac{1}{2m}\omega ^2 A^2 + \frac{1}{2m} \dot{A}^2と書けることと,伝播速度が\propto \frac{1}{\sqrt{m}}に比例することから,電磁気の場合と並行に議論ができます.

*4:以下では一貫して,電場の反射率・透過率を扱います.磁場の反射率は電場と同じですが,磁場の透過率には因子\alphaがかかるため,電場の透過率とは区別する必要があります.