荷物を持つ時の負荷

今日の素朴な疑問:


重たい物の両端を2人で支えてるとき、上に持ち上げると軽く感じるのは何故?


確かに経験上、引っ越しなどで家具の両端を2人で持っているとき、階段を降りる際など、下にいる人のほうが上にいる人よりも負荷を感じますよね。
それに、2人で並んで歩きながら荷物を持っているとき、
「荷物重たいねー(´・ω・`)」
って言われたから
「よーし、おじさん頑張っちゃうぞーヾ(`・ω・´)
と、張り切って荷物を持ち上げたら、
「ちょ、ばか、こっちに負荷かけないでよねっ!!」
とか怒られた経験ってありますよねー。



でも、少し考えると奇妙じゃないですか?


確かに、水が中途半端に満たされた容器を運んでいるなら、(重心が移動するので)下にいるほうが重くなることは分かります(下図)


でも、鉄骨のような、変形しない物体を運んでいるならば、(重心は2人の中央にあるままなので)上下方向の力は変わらないはずです(下図)



では、どうして下にいる人のほうが重く感じるのでしょうか?





      ↓
      ↓正解はこの下
      ↓





答えは、上の考察では上下方向の力しか考えていないからですね。
実を言うと、左の人が棒の向きに力を加える場合、合成した力の大きさはもっと少なくて済みます(下図)


もっと言うと、摩擦力がない場合(或いは、摩擦力をかけるために強く握る努力などを、左の人がしない場合)には、合力が棒に垂直な向きになるように (必然的に、一番負荷が少なくなるような方法で)棒の向きに分力がはたらくわけです。
そして、左の人がラクをする代償として、右の人にかかる負荷が大きくなるわけですね。


もっと定量的に言うと、(簡単な幾何によって)左の人が支える力の大きさは \cos \theta 、右の人が支える力の大きさは \sqrt{1+3\sin ^2\theta となります*1


グラフにすると、下のようになります。




ここで以下のような面白いことが分かります。

  • 2人の発揮する力の和が一定でないこと

グラフの青線を見てもらえれば分かるように、2人の力の和 \cos \theta + \sqrt{1+3\sin ^2 \theta} は一定になりません。その理由は、角度が傾いていると両者が左右に押し合うせいで、棒を持ち上げるのに不要な力(結果として相殺する力)が生じるためです。
つまり、自分だけラクをしようとズルをして、こっそり持ち上げると、結果として2人合わせて発揮するべき力は大きくなってしまうんですね。

  • 左の人の利得より、右の人の損失のほうが大きいこと

すぐ上の考察から推測されるように、左の人がラクをしようと思って持ち上げることで得られる利得は、右の人の損失よりも少ないです。
具体的には、 \theta \ll 1 で展開すると、
 \cos\theta \simeq 1 - \frac{1}{2}\theta ^2
 \sqrt{1+3\sin ^2 \theta} \simeq 1 + \frac{3}{2} \theta ^2
となります*2。つまり、利得よりも損失のほうが3倍大きいわけですね。

  • 小さい角度では大して差が出ないこと

上で計算した展開式
 \cos\theta \simeq 1 - \frac{1}{2}\theta ^2
から分かるように、角度の2次のオーダーで利得が生じるため、こっそりと角度をつけた程度では大してラクにならないようです。具体的には、20°くらい角度をつけないと、あんまりラクになった感触は得られないようです。。。

*1:左の人とは違って、右の人は棒に平行な成分にも力を加えられると仮定しています。それは、右の人にとってはその力は「押す向き」だから、角を支えていれば摩擦力なしに発揮できる力だからです。それに、左の人は棒を落っことしても平気ですが、右の人は自分の体に棒が降ってきたら堪ったもんじゃないですよね ^^;

*2:度数法だと係数が煩わしいので、ここだけ弧度法を使っています。この脚注の意味が分からなかったら、上の式の\theta\theta \rightarrow \frac{\pi}{180}\theta ' と読み替えてね。(\theta ' は度数法の角度)